2年程前から腰が痛い。
特に腰の骨の脇付近が痛むことが多い。
痛みの性状は日によって違うが、「張っている」「重だるい」「ズキズキ」等、様々である。
一日中、痛み、違和感はあるが、夕方になると特に痛みが悪化する。
病院でレントゲン、MRIを撮ったが骨や軟部組織には異常はなかった。
その後、接骨院で電気治療、マッサージを受けているがあまり良くならない。
半年程前からは腰痛に加えて、スネ、ふくらはぎの筋肉も張って痛むようになった。
この方の妹さんが肩こりで当院に通っていて「鍼治療を受けてみれば」と当院を紹介していただき、来院された。
腰痛は厳密にいうと、30代の頃からあった。
しかし酷くなったのは、50代になってから。
仕事は調理関係で、立っていることがほとんどである。
足にしびれ等の神経症状はない。
体重はここ10年で20キロほど増加している。
血液検査では、悪玉コレステロールが高く、薬を服用している。
運動はしておらず、たまに付き合いでゴルフに行く程度。
最近は仕事中に腰痛が酷くなることが多く、椅子に腰かけてしまうことがある。
身体診察では、腰椎脇の脊柱起立筋、多裂筋が異常に張っている。
下肢の筋肉に関しても、腰同様、酷く張っている。
腹部に関してはかなり太っていて、脂肪がたくさん付いている状態。
腰椎は過度に後湾している。
しびれ等の神経症状は無い。
腰椎脇の筋肉の過緊張がある。
腰椎の後湾が酷い。
過度の体重増加がある。
それらを総合すると、「腰椎後湾が原因の筋膜性腰痛」と推察される。
仰向けで、前脛骨筋、長短腓骨筋に鍼治療。
うつ伏せで、脊柱起立筋、多裂筋、腰方形筋、大腰筋等に鍼治療。
痛みは少し楽になった。
痛み指数10→7。
施術は前回同様。
痛みはだいぶ楽になっている。
痛み指数7→3。
施術は前回同様。
痛みはほとんど気にならない。
痛み指数3→1。
施術は前回同様。
痛みはほとんど気にならない。
施術は前回同様。
一応、痛みが改善したので一旦施術を終了した。
しかし一か月半後に再度来院、「また痛みが出始めたので早めに来ました」とのこと。
その後は一か月に一回程のペースで来院しているが、調子は良いようである。
今回の症例は体重増加によって腰椎が後湾してしまい、結果として腰椎脇の筋肉が過緊張を引き起こして痛みの症状を発症したと思います。
ほとんどの人間は年をとると新陳代謝が下がるので、結果として体重が増えることがあります。
なかでも腹部への脂肪の蓄積は多く、特に食生活が若い頃と変わらないで、運動もしていない場合は著名です。
このように体重が増加して腹部が出てくると、人間はバランスをとるために「反り腰」になります。
「妊婦」の方を例にとるとわかりやすいのですが、胎児が大きくなるにつれ「反り腰」が著名になります。
そして反り腰になると、腰椎(腰の骨)は過度に曲がるので、必然的に腰部の筋肉は「緊張状態」になります。
特に腰椎の脇にある「脊柱起立筋」「多裂筋」は過緊張状態になって硬くなります。
この状態が続くと「腰痛」が発症するようになるのです。
当院にもこのような「反り腰」が原因の腰痛で来院される方は多くいらっしゃいます。
そのほとんどが中高年で体重が増加している方です。
このような方は若いころは新陳代謝が良く、運動もしている場合がほとんどなので良かったのですが、就職して運動をしなくなり、食生活も若いころと変わらず、付き合いでお酒を飲む機会も増えるので、人によっては10Kg以上も体重が増える場合が多々あります。
10Kg単位で体重が増えるのですから腰の負担は相当なものになりますね。
当院ではこのような症状の方に対しては、硬くなっている筋肉にしっかりと鍼をしていきます。
基本は脊柱起立筋、多裂筋を中心に、その他関連していると思われる筋肉に鍼をします。
また腰以外では「下腿」の筋肉を緩めることも重要です。
これは体重が増えると、下腿の筋肉にも過度のストレスがかかるからです。
基本的には、前脛骨筋、腓腹筋等が過緊張を引き起こします。
ですので当院ではこれらの筋肉もしっかりと鍼で緩めます。
反り腰からの腰痛に関しては、ほとんどの方が数回の施術で痛みは改善します。
しかし根本的に治すのであれば「減量」が絶対に必要です。
あたりまえですが体重が落ちれば腰の負担は減っていきます。
ですので私は患者さんに「とりあえず三か月で5キロ落としましょう」と伝えるようにしています。
三か月で5キロの減量であれば無理せず落とせると思うからです。
5キロ体重が落ちるだけでも腰への負担はかなり減ると思いますよ。
疾患症例集について・・・
臨床経験のなかで、特に印象が強かった症例をできる限り分かりやすく掲載しています。
これをご覧になって、ご自分の症状と似ている部分があれば施術方針の参考にしてください。