二年前から左の臀部に違和感を感じた。
症状は徐々に悪化していき、半年前からは明らかに痛みを伴うようになった。
とにかく長時間立っていたり、歩き初めに臀部に痛みを感じて、大腿の後面・外面にしびれを感じる。
また痛みをかばっているので、腰の張りも感じるようになった。
病院でレントゲン、MRIを撮ったが軽い変形が認められただけで、病的なものは無かった。
一応、痛み止めは処方されているが服用してもあまり変化は感じられない。
この方のお嬢さんが当院に来院していて、自分の症状が軽くなったので「何とかしてください」と連れてこられた。
年齢は90代なので仕事はしておらず、家にいることが多い。
痛みが徐々に悪化しているので、もともと外出するのが好きだったが、痛みが原因で今現在はあまり外出はしてない。
もともと性格は明るかったようだが、症状が悪化しているので気分もふさぎがちである。
症状は、特に立位、歩行開始時が辛い。
足へのしびれは激痛まではいかない。
横になって休んでいると、症状は落ち着いている。
身体診察では、臀部全体の筋肉が異常に硬くなっている状態。
筋肉の量は、年齢のわりにはとてもしっかりしている。
腰部の筋肉も硬くなってる。
骨格はとても太く丈夫である。
検査で骨にはこれといった異常は見受けられない。
立位、歩行開始時の痛みが主。
臀部を中心に大腿への軽いしびれ。
これらを総合すると、梨状筋症候群と推察される。
左上の側臥位で、臀部(特に梨状筋、小殿筋、大殿筋)に鍼をする。
その他には、腰部全体、左大腿(後面、側面)の筋肉に鍼をする。
鍼をした後、温灸療法で臀部の筋肉を温める。
前回の施術でかなり楽になった。
痛み指数10→5。
施術は前回同様。
かなり楽になっている。
痛み指数5→2。
施術は前回同様。
痛みはほぼ無い。
家の周りを10分ほど歩いてみたが、痛みも発症しなかった。
施術は前回同様。
今回の症例は典型的な「梨状筋症候群」になると思います。
梨状筋症候群は、臀部にある梨状筋が様々な原因によって硬くなってしまう疾患です。
梨状筋が硬くなると、場合によっては坐骨神経を絞扼してしまうので「坐骨神経痛」を併発してしまう場合もあります。
今回の方も、大腿にしびれを発症していたので坐骨神経痛を併発していたと思います。
また今回の方は、梨状筋以外にも臀部の筋肉群が異常に硬くなっていて、それも症状の原因になっていました。
そしてなんといっても今回のケースで懸念したのが「高齢」であることです。
90歳を超えているので、かなりの高齢ということになります。
通常、90代になると正直施術をおこなっても改善率は良くないです(経験上)。
しかし今回は予想に反して数回の施術で症状の改善をみました。
それもほぼ100%に近い改善率でした。
90代でここまで改善するパターンは滅多にありません。
しかし高齢者でも鍼灸治療によって、かなりの症状の改善ができる場合も多々あります。
ではどのような場合において、高齢者でもかなりの症状改善ができるのでしょうか。
それは「筋肉がしっかりしている」ことです。
ここで言う筋肉がしっかりしているとは「筋肉の量がたくさんある」ということです。
要するに年齢の割には、筋肉がしっかりとたくさんくっついているのです。
そして抱えている症状が「筋肉が原因」の場合です。
このような場合、もともと筋肉量はしっかりとあるので、硬くなっている筋肉をしっかりと鍼で緩めれば筋肉は本来の状態を取り戻します。
要するに筋肉の柔軟性が良くなり、血行が改善して、体重を支えることが簡単にできるようになるわけです。
今回のケースの方も、筋肉は十分な量があったので、鍼治療で硬くなっていた筋肉を緩めれば良かったわけです。
それとは反対に、高齢者で筋肉量が少ない方の場合は改善に苦慮します。
特に高齢者が罹患しやすい「神経痛」「関節痛」は、筋肉がしっかりとしていないと症状の改善が難しくなります。
それだけ高齢になると筋肉の量(質)は重要になってくると思います。
これらを加味すると、70歳を過ぎたら筋肉量を減らさない努力も必要なんだと思っています。
もちろん激しい筋トレをする必要はありません(若いころから慣れている人は良いと思いますが)。
基本的には、軽い運動、歩行等、要は長く続けることが重要だと思います。
疾患症例集について・・・
臨床経験のなかで、特に印象が強かった症例をできる限り分かりやすく掲載しています。
これをご覧になって、ご自分の症状と似ている部分があれば施術方針の参考にしてください。
尚、ご自身の抱えている症状が当院の施術で改善するのか、詳しく知りたい場合は遠慮なくご相談ください。