「食いしばり」という言葉は聞いたことがあるでしょうか。
食いしばり(噛みしめ癖)とは、寝ている時や物事に集中している時に「無意識に歯をくいしばる癖」のことをいいます。
よく聞く「歯ぎしり」とは違います。
歯ぎしりは歯を左右に動かす行為ですが、食いしばりは噛むだけで歯は動かしません。
食いしばりの厄介なところは、歯ぎしりと違って音があまり鳴らないので他人には気づかれることがほとんどありません。
ですのでこの疾患に気づくことがほとんどなく、結果として症状が悪化するパターンが多いことです。
ではこの「食いしばり」ですが、具体的にはどのような状態をいうのでしょうか。
まず「食いしばり」ですが、「クレンチング症候群」とも言われます。
この疾患の特徴は、とにかく上下の歯を強い力で嚙合わせることです。
通常であれば、上の歯と下の歯が合わさっているのは食事の時だけです。
因みに食事のときに歯が合わさっている時間は平均20分程度と言われています。
それ以外の時間に関しては、一ミリ程の隙間をあけた状態を保っているのが正常です。
しかし食いしばり癖がある人は、一日に数時間程度、かなりの力で上下の歯を嚙み合わせているのです。
食いしばりの原因はいくつかありますが、代表的なものを説明してみます。
対人関係のストレス、緊張する場面でのストレス、仕事のストレス等があります。
精神的なストレスは=脳のストレスと言えます。
脳がストレスを感じると、食いしばりによってストレスを発散しようとします。
歯の高い部分、低い部分があると物をしっかりと噛むことができません。
すると脳からもっと強く噛むように命令をだしてしまいます。
瞬発力が要求される運動をしている人は、食いしばりが習慣化してしまう場合があります。
このなかで圧倒的に多い原因としては「ストレス」になります。
特に脳がストレスを感じると、食いしばることによってストレスを発散しようとします。
具体的に説明すると、食いしばることによって脳から「ドーパミン」という物質が放出されます。
ドーパミンは別名「快楽物質」とも言われ、要するにドーパミンがたくさん出ると脳のストレスが治まるのです。
したがってストレスを抱えた脳は、無意識に食いしばりを行うことによってドーパミンをたくさん出してストレスを解消しようとするわけです。
この「食いしばり」ですが、実は食いしばりが原因と思われる疾患ってたくさんあると言われています。
代表的な疾患を挙げてみしょう。
歯に負担がかかるので、歯自体が損傷を受けます。
具体的には、歯の破折、歯の痛み、歯がしみる、虫歯・歯周病が発症しやすくなる等。
口を開けようとすると顎が痛い、口を大きく開けることができない、顎を動かすと音がする等。
顎関節にストレスがかかると、周囲の筋肉が硬くなってしまうので痛み、運動障害、関節のズレが生じます。
顎関節にストレスがかかると、そのストレスが波及して、首、肩の筋肉が影響を受けます。
さらに悪化すると、背部の筋肉が影響を受けて硬くなります。
硬くなった筋肉は、こり、痛みを発症しやすくなります。
食いしばりは顎の筋肉を酷使しますが、頭にある筋肉も同時に酷使します。
なかでも「側頭筋」という筋肉は食いしばりに深く関連する筋肉です。
側頭筋が酷使されて硬くなると「緊張性頭痛」を発症する確率が高くなります。
内耳に栄養を送っている栄養血管は、顎の周囲を通っています。
食いしばりによって、顎周囲の筋肉が硬くなると内耳の栄養血管が影響をうけて血流が悪くなります。
内耳の血流が悪化することにより「低音難聴」「めまい」「耳鳴り」「耳のつまり」等が発症する場合があります。
食いしばりが続いていると、自律神経の交感神経が優位になります。
交感神経は緊張するときに優位に動く神経です。
通常、人間は寝ている時(リラックス状態)は副交感神経が優位にならなくてはいけないのですが。
食いしばりがある人は、寝ている時も交感神経が優位な状態になってしまいます。
この状態が続くと自律神経のバランスが崩れてしまい、自律神経失調症になってしまいます。
自律神経失調症になると「疲労感」「イライラ」「不眠」「落ち込み」等の精神的な症状も現れやすくなります。
厄介なのは、これらの疾患が確実に「食いしばりが」原因なのかわかりずらいということです。
何故なら「食いしばり」は、病院で検査をしてもわからないからです。
優秀な歯科医師であれば、歯の状態を診てわかるかもしれませんが。
ただ日常的に食いしばりがある人は、顎の周りの筋肉が異常に硬くなっていたり、口を開けると顎関節がズレたりしますので触診等でわかりやすいと言えます。
食いしばりに対する治療法ってあるのでしょうか。
いくつかあるのですが、食いしばり自体は無意識の行為なので残念ながら完治させる治療法はありません。
ですのですべては「対処療法」になります。
まず歯科医院では概ね次の治療法があります。
歯科医院にいくと必ずと言っていいほど勧められます。
マウスピースをつけて寝れば噛む力が分散されるので、歯への損傷を防ぐことができます。
ただせっかく作っても、面倒、合わない等の理由で付けない人も多いです。
嚙み合わせが原因の場合は、噛み合わせの調節をすれば治る場合もあります。
ボツリヌス菌から抽出したタンパク質を硬くなっている筋肉に注射することにより、緊張を緩和する治療法です。
ただし効果は一時的なので、定期的の注射は必要です。
歯科医院ではなく病院に行った場合は、ボトックス治療がメインになると思います。
では、鍼灸治療では食いしばりに対してどのように施術しているのでしょうか。
これは鍼灸院によって施術法は違います。
ここでは当院の施術法を紹介します。
まず、首、肩、背部の筋肉の緊張部に鍼をしていきます。
食いしばりが激しい人は、首、肩、背部の筋肉が過緊張を引き起こしている場合がほとんどだからです。
特にストレスが多い場合は、必ずと言っていいほど上記(イラスト)の筋肉が硬いです。
鍼でしっかりと上記の筋肉を緩めれば、体の緊張も楽になるので、食いしばりのストレスを減らすことができます。
顎関節周囲の筋肉に刺鍼していきます。
食いしばりで主に酷使される筋肉jは「咬筋」「翼突筋」「側頭筋」です。
食いしばりが激しい人は、間違いなくこれらの筋肉が硬くなっています。
また「胸鎖乳突筋」「斜角筋」という首の筋肉も硬くなっていることがほどんどです。
これらの筋肉に鍼でしっかりとアプローチをしていきます。
鍼で上記の筋肉がしっかりと緩めば、食いしばりの回数、頻度が減っていきます。
鍼治療に加えて、温熱療法を行うと血流が良くなり筋肉の緊張の緩和になります。
また症状が激しく「炎症」を引き起こしている場合は、微弱電流を流すことにより炎症を抑えていきます。
当院では、食いしばりの人に対しては上記のような施術をしていく場合がほとんどです。
個人差はありますが、数回の施術で徐々に食いしばりの症状は楽になります。
ただし、完治は難しいので症状が落ち着いてきても定期的な施術は必要になってきます。
食いしばりで悩まれている人は多いようです。
当院でも、肩こり、頭痛等で来院された人をしっかりと診ていると「食いしばりが原因だった」といったパターンが多いです。
この場合は、主症状に加えて食いしばりの施術も必要になってきます。
とにかく、食いしばりが激しい人はほとんどにおいて「過度のストレス」を抱えている場合が多いです。
ですので「ストレスの発散」がとても重要になってきます。
なるべくストレスを発散するよう心がけてください。
私がよく発散の一つとしてお勧めするのは「ガムを噛む」です。
ガムを噛むことによって顎関節周囲の筋肉のストレッチにもなりますし、脳からドーパミンも放出されやすくなります。
よくメジャーリーガーがクチャクチャと試合中にガム噛んでいますが、あれはガムを噛むことによって試合の緊張を発散させているんだと思います。
とにかく食いしばりが気になる人は、まずは歯科医院で診てもらいましょう。
そこで食いしばりを指摘されたら、しっかりと治療してください。
放っておくと、様々な症状を発症して悩まされることになります。
鍼灸治療も対処療法とのひとつとしてはお勧めです。
しっかりと施術を行っていけば、個人差はありますが徐々に楽になりますよ。
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