三か月程前に、職場で急なめまいに襲われた。
めまいは回転性で、周囲がグルグルと回ってしまい立っていることが出来なくなる。
同時に酷い耳鳴りが起きてパニックを起こしてしまった。
同僚に抱えられて病院に向かい、検査をすると低音部の難聴があった。
医師は総合的に診て「メニエール病」と診断となった。
しばらく仕事を休職して、自宅で薬物療法をすることになった。
二週間ほどすると、症状はだいぶ落ちついて職場にも復帰した。
しかし、しばらくするとまためまいが発症するようになった。
めまいは初期ほどは酷くないが、場合によっては回転することもあり、立っていることが出来なくなる。
難聴は気にならないが、病院で検査をすると低音部の聞こえが悪くなっている。
耳鳴りは常にしていて、さほど大きい音ではないが睡眠時は気になる。
一応、病院では「利尿剤」「漢方薬」を処方されて服用はしているが、完全に回復はしていない状態。
病院以外で、何かないかと検索すると「整体」「鍼灸」等がたくさん出てきた。
十代の頃、部活で腰痛になったときに鍼治療をして劇的に良くなった記憶があったので、鍼灸を試してみたくなり自宅の近くにある当院のホームページを見て来院された。
今現在の症状は、軽いめまい(時に回転性)、軽度の耳鳴り(両側)、軽度の難聴(両側)、耳のつまり感(両側)がある。
症状はストレスが多い時、睡眠が不足したときに発症しやすい。
性格は几帳面で、神経質だと自分でも自覚している。
仕事はパソコンが主で、ほとんど体を動かさないし運動もしていない。
耳鳴りは「ボー」といった低い耳鳴りである。
難聴は低音部のみ下がっている。
触診すると、首の緊張が酷い状態。
頭を触診すると場所によっては「浮腫」がみられる。
回転性めまい、耳鳴り、難聴を伴っている。
この症状が三つ揃っているので、メニエール病と推察される。
仰臥位で、頭、手、足のツボに鍼をして自律神経のバランスを整える。
頭の浮腫にお灸をする。
伏臥位で、首を中心に、肩、背中の筋肉に鍼治療をして筋肉を緩める。
温灸器を首の筋肉に充てて、緊張をとる。
めまいの頻度は減っている。
難聴も病院の検査で「正常」に戻っている。
耳鳴りはあまり変化なし。
施術は前回同様・・・
施術のペースを週に一回にする。
今のところ、めまい発作は出ていない。
耳のつまり感もほどんど気にならない。
耳鳴りは、静かなことろでは鳴っていると分かる程度。
施術は前回同様。
めまいはほどんど無いが、疲れると「フワッ」とした感じの軽いめまいはある。
難聴は病院の検査では「異常なし」
耳鳴りは、あまり変化はみられない。
耳の詰まり感はまったく気にならない。
施術は前回同様。
今回の症例は、典型的な「メニエール病」だと思います。
メニエール病という言葉は、ほとんどの方が聞いたことがあると思います。
この病気を発症する人は、ほとんどが「過度のストレス」を抱えていることがほとんどです。
要するに、この病気の原因は「過度で長期のストレス」です。
このメニエール病ですが、しっかりとメニエール病と診断するのが結構難しいと言われています。
何故ならひと昔前まで、めまいがあると即メニエール病と安易に診断されることが多かったようなんです。
ですので結果的に「メニエール症候群」といったグレーな疾患名で診断されることもあったようです。
現在では、メニエールの診断基準として「回転性めまい」「耳鳴り」「難聴」の三つが揃っていることが必須とされています。
このメニエール病は、一旦発作が起きると回転性のめまいが起きるので、本人はとても辛い状態になります。
ほとんどの方は嘔吐してしまい、その状態がしばらく続くわけです。
また耳鳴りも個人差はありますが、酷い場合はうるさくて眠れない状態になります。
難聴に関しては低音部が下がることがほとんどで、高音部が下がることはほとんどありません。
更には自覚症状として「耳のつまり感」を訴える場合もあります。
とにかくメニエールの発作が起きた場合は、一刻も早く病院で応急処置が必要になります。
病院では主に薬物療法を行います。
症状が酷い場合は、入院して点滴を行い症状の改善を図ります。
また外来では「利尿剤」「抗めまい薬」を処方されることがほとんどです。
一方、鍼灸ではどのようにメニエール病を施術していくのでしょうか。
鍼灸院によって考え方、施術の方法が様々ですので統一性が無いのが現状です。
因みに当院では、「自律神経バランスを整える」「首の筋肉をしっかりと緩める」ことを重要視しています。
まず「自律神経のバランスを整える」ですが。
メニエール病の方は、ほとんどが「過度のストレスを抱えている」場合が多く、結果として自律神経のバランスが崩れていることがほとんどです。
自律神経のバランスが崩れることによって、ホルモンのバランスが崩れたり、血行が悪くなる、内耳にある蝸牛内のリンパ液が増えすぎると言われています。
ですので鍼や灸で自律神経のバランスを整えることよって、上記の作用を改善していきます。
次に「首の筋肉を緩める」ですが。
首が硬くなると頸椎の横を走っている「椎骨動脈」が絞扼されて、そこから枝分かれした内耳に栄養を送っている栄養血管の血流が悪くなります。
この状態になると、内耳にある「蝸牛」の新陳代謝が悪くなるので結果として「蝸牛が浮腫み」ます。
蝸牛が浮腫むと、めまい、耳鳴り、難聴を発症するのです。
ですので鍼治療でしっかりと首の筋肉を緩めることによって、内耳の血流を改善すれば上記の症状も治まっていきます。
尚、蝸牛の浮腫み等の随伴症状として、頭にも浮腫ができることも多いと言われています。
実際にメニエール病の人の頭を触ると、部位によって「ぷよぷよ」と凹む場所が幾つか見受けられます。
ですので当院では頭の浮腫がある場合、その部分に鍼や灸をして間接的に内耳の浮腫みを改善します。
これらの方法で施術を行うことによって、時間がかかるのですが徐々にメニエールの発作を抑えていきます。
個人的な意見としては、メニエール病の予防的な役割で鍼灸治療が有効なんだと思います。
つまり発作時には医療機関での治療が最優先なのですが、その後は鍼灸や漢方薬等で予防するのが良いと思っています。
この病気はストレスを改善したり体の緊張を緩めていれば、発作の回数を減らせたり、発作そのものを無くしたりするこができるのです。
ですので予防することがとても大事だと思います。
患者さん自身も、しっかりと生活改善を行うことが重要です。
ストレスをなるべく溜めないことです。
また「ウォーキング」も推奨されています。
これは足を使うことによって、全身の血流を改善する効果があります。
ウォーキングをしっかりと行うことによって内耳の血流も良くなるので、発作の予防にもなりますよ。
疾患症例集について・・・
臨床経験のなかで、特に印象が強かった症例をできる限り分かりやすく掲載しています。
これをご覧になって、ご自分の症状と似ている部分があれば施術方針の参考にしてください。
尚、ご自身の抱えている症状が当院の施術で改善するのか、詳しく知りたい場合は遠慮なくご相談ください。