「痛み」を発症する原因は様々ですが、そのなかに「過度のストレス」「不安」「恐怖」等の精神面が原因となっている痛みがあります。
それらを総称して「心因性疼痛」と言います。
心因性疼痛は読んで字のごとく、心(脳)が原因で痛みを発症している疾患と言えます。
当院のような痛みの施術を行っている鍼灸院にも、心因性疼痛と思われる方が一定数来院されることがあります。
では心因性疼痛に対して鍼灸治療は有効なのでしょうか。
あくまでも私個人での考えであり、他の施術者の考えは違うと思いますが、私なりに解説してみたいと思います。
まず、痛み・しびれ等の感覚を司っているのは「脳」です。
例えば「腰痛」を例に挙げてみますが、「腰が痛い」という感覚はあくまでも「脳」が作り上げています。
腰自体が「痛い」と言ってるわけではありません。
ですので例えば腰の筋肉がとても硬くなっていて普通なら腰痛を感じてもおかしくないようであっても脳が「痛くない」と感じれば痛くないわけです。
それとは逆に腰の筋肉がまったく硬くなく、腰痛が起きないような状態であっても脳が「痛い」と感じれば痛いわけです。
難しい話になってしまうのですが、要するに痛み等の感覚は「脳」が支配しているわけです。
極端に言えば、麻酔で脳を完全に眠らせてしまうと、メスで身体を切っても痛みを感じない訳ですね。
さて心因性疼痛に関してですが、脳の特徴として「ストレスを感じると痛み等の感覚を発症しやすい」といった特徴があります。
要するに過度のストレス、不安、恐怖等の精神的な原因が続くと脳はひとつの信号として「痛み」といった感覚を出してしまうことが多々あるのです。
例えば仕事(学校)に行きたくないと思うと、人によっては「頭痛」がしたり「腹痛」が起きたりする場合があります。
しかし頭痛があっても脳には異常はありませんし、腹痛があっても胃腸には器質的な問題は起きていないわけです。
このような状態を「心因性な痛み」、要するに脳が痛みを引き起こしている状態といえます。
心因性疼痛以外にも「慢性疼痛」という疾患があります。
この慢性疼痛も近年の研究では脳が痛みを記憶してしまい、器質的には治っているのに脳が痛みの信号を出し続けていると言われます。
心因性疼痛の原因は上記で説明した通り、過度のストレスをはじめ、不安、恐怖などの精神的なショックが引き金になっている場合がほとんどです。
しかし上記のストレスがあっても心因性疼痛を発症する人もいる一方、発症しない人もいます。
この差は何なんでしょうか。
一概には言えないのですが、個人的には以下のタイプが発症率が高いと思います。
一般的に言う、真面目な人はこの疾患を発症しやすいと思います。
例えば、心身ともに疲弊しているのにも関わらず、上司から仕事を頼まれたら受けてしまう。
曲がったことが嫌いなので、ちょっとした間違いでも訂正せずにはいられない等。
このタイプの人はストレスをとても溜めやすく、心因性の疾患を発症しやすいと言えます。
神経が細かい人は、そうでない人に比べるとストレスを抱えやすい傾向にあります。
例えば数字で説明しますと、5のストレスを受けた場合、神経質な人は10くらいにストレスを受けてしまいます。
要するに同じストレスでも、神経質な人は脳へのダメージが多いと言えます。
このようなタイプの人がストレスの多い生活環境にいると、心因性の疾患を引き起こす確率が高くなります。
うつ病、パニック障害、適応障害等、精神的な疾患を抱えている人は、心因性疼痛を発症している場合が多いです。
これは精神疾患によって脳からのホルモンに異常をきたしているからです。
例えば、うつ病を発症すると脳にあるセロトニンが枯渇しやすくなります。
セロトニンは痛みを下げる効果があるのですが、このホルモンが減ることによって痛みを感じやすくなります。
このように心因性疼痛を発症しやすいタイプがあると思います。
要するに、脳への何らかのダメージが多いほどこの疾患を発症しやすいのではないかと思っています。
また最近では、パソコン、スマートホンの使いすぎも心因性疼痛を発症しやすい原因だと思っています。
これらは光刺激なので、目をかえして脳への興奮が高くなり、結果的に脳のダメージとなって疼痛を発症しやすくなると考えています。
心因性疼痛に関して、治療法はあるのでしょうか。
今のとこと、この治療を受ければ確実に良くなるといったものはありません。
要するにすべてが「対処療法」になります。
まず西洋医学的な治療に関してですが、薬物療法がメインになるようです。
まず一般的な「鎮痛剤」は効果がほとんどありません。
これは痛む部分に炎症などの発痛物質が存在しないことを意味します。
なので神経に作用する薬が比較的効果があると言われています。
「リリカ」「サインバルタ」等の神経薬が効果的と言われています。
また「抗うつ薬」「抗不安薬」等の脳に作用する薬物も有効と言われています。
薬物以外の治療では「行動認知療法」を行う場合もあるようです。
ものの考え方を変えることによって、脳への悪習慣が変化できれば痛みも治まっていく場合もあるようです。
また痛みが激しい時は、麻酔科等で行っている「神経ブロック」が有効な場合もあるようです。
いずれにしても、心因性疼痛に対しての治療成績は個人差があるので一概にはいえないようです。
効果があった人もいれば、あまり効果が無い人もいるのが現状です。
では心因性疼痛に対して、鍼灸治療は効果があるのでしょうか。
あくまでも私個人の意見としては「何とも言えない」となります。
要するに効果があった人もいますし、まったく効果がなかった人もいるからです。
そもそも心因性疼痛とは、心因的な部分が原因になっていますので鍼灸のような肉体にアプローチする施術法は効果が薄いと言わざるを得ません。
しかし、実際に症状が改善した人もいるのは事実です。
では改善した人は、どのような過程を経て症状が改善したのかを説明します。
まず患者さんは痛み、しびれ等の症状を抱えています。
ですのでまずは症状のある部分に対して鍼灸治療で直接アプローチします。
結果として、人によっては鍼灸治療のみで症状が改善する場合も多いです。
その場で痛み、しびれ等が楽になれば「安心感」が生まれるので心因的にも効果があると思います。
ほとんどの場合、施術直後は症状がある程度改善します。
しかし心因性の場合、ほとんどの人が数日で症状が元に戻ってしまうことが多いです。
ここが肉体面での疼痛とは明らかに違うと思います。
なので心因性疼痛の人の施術に関しては、長期間通ってもらう必要があります。
数回の施術では、症状が一進一退なのですが、長期で施術を行っていると徐々にではありますが症状が改善していくことが多いです。
心因性疼痛の場合、日常生活が原因となっている場合がほとんどです。
例えば仕事でのストレス、家庭内でのストレス、または過去のトラウマ等。
ですのでストレスの元となっている環境を変える必要があります。
例えば仕事での人間関係であれば、部署を変えてもらう。姑との折り合いが悪いのであれば引っ越す等。
もちろん出来ることと出来ないことがあると思いますが、なるべくストレスの元となるものがあれば離れましょう。
また気分転換も必要になります。
趣味があれば、趣味に没頭している時間は不思議と痛みが無くなります。
心因性の疼痛は、脳の機能障害と言えます。
要するに脳が様々なストレスによって「痛み」という誤った信号を発信している状態と言えます。
脳に作用する抗うつ薬、抗不安薬で効果があるのは、まさにこの疾患が脳の機能性疾患だからと言えるでしょう。
一方、鍼灸治療は肉体面での効果は期待できますが、脳への直接的なアプローチは効果が薄いと思います。
しかし人にもよりますが、痛い部分に直接鍼灸でアプローチしていると、徐々にではありますが、症状が改善する場合もあります。
これは疼痛部位を鍼灸で和らげていると、「痛みが和らぐ」といった心理状態が続き、結果的に脳への興奮が改善すると思っています。
とにかく心因性の場合は、短期の効果を期待ぜずに長い目で症状と向き合うことが大切です。
また心因性疼痛を発症する方は、性格が真面目で神経質の人が多いです。
このタイプの人は朝起きると、痛みを確認する癖がついています。
心因性疼痛の場合、痛い部分に意識を集中すると余計に痛みを感じることがほとんどです。
ですので気持ちはわかりますが、なるべく痛みにフォーカスするのは止めましょう。
また自分の症状は何が原因なのか過度に調べる人も多いです。
心因性疼痛は病院で検査しても器質的な異常はでてきません。
しかし「異常ありません」に納得がいかず、ドクターショッピングを繰り返している人もいます。
そんなことをしているとかえって精神が興奮してしまうので、余計に症状が悪化する場合もあります。
また最近ではネットで過剰に自分の症状を調べる人もいます。
これもネットの情報を鵜呑みにしてしまう場合もありますし、悪い情報を自分の症状とくっつけてしまう人もいますので厄介です。
ネットでの検索はほどほどにしましょう。
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