急に顔の半分が動かなくなってしまう。
あわてて病院に行くとほとんどの場合「顔面神経麻痺」ですと診断されると思います。
顔面神経麻痺とは、顔の筋肉を動かす神経(顔面神経)が様々な原因によって死滅してしまい、結果として顔の筋肉が動かなくなってしまう疾患です。
よくテレビ等で芸能人なんかが「顔面神経麻痺を発症した」と報道されることも多く、ほとんどの方は詳しくはわからなくても何となく症状を理解していると思います。
当院のような鍼灸院には「顔面神経麻痺」での問い合わせがとても多く、それだけこの疾患で悩まれている方は多いようです。
また実際に来院される方も多いのですが、ほとんどの方は「ベル麻痺」「ハント症候群」といった種類の顔面神経麻痺です。
因みに、ベル麻痺の原因については完全にはわかっていないのですが、経験上「過度のストレス」が関係していることは間違いなさそうです。
またハント症候群については「帯状疱疹ウイルス」が関係しますが、これについてもベル麻痺同様、ストレス・疲労が引き金になっている場合がほとんどです。
要するにベル麻痺、ハント症候群に罹患する方は過度のストレス、睡眠不足等、生活環境に問題があると思われます。
顔面神経麻痺に罹患した場合、まずは病院での治療が最優先されます。
基本は「ステロイド」による薬物治療がメインです。
また症状によっては「抗ウイルス薬」「ビタミン剤」が処方されることもあります。
しかし病院の治療で完治すればよいのですが、ほとんど場合治りきらないことが多いのです。
例えば重度のベル麻痺、ハント症候群等に関しては病院だけの治療だけでは難しい場合がほとんどです。
そしてこのような場合、ほとんどの方が西洋医学以外の施術を併用することが多く、そのなかで「鍼灸治療」を受ける方も多いようです。
当院ではホームページに顔面神経麻痺を詳しく掲載していることもあって、来院される方は一定数いらっしゃいます。
そして病院の治療と併用して鍼灸治療をしていただくと、個人差はありますがほとんどの方が改善に向かっていきます。
顔面神経麻痺に罹患された方のほとんどは後遺症もなく完治する場合がほとんどなのですが、一部の方に後遺症が残る場合もあります。
一般的に後遺症が残りやすい方は、「比較的重度のベル麻痺」「ハント症候群」に多いようです。
ここで顔面神経麻痺の後遺症とはどのような症状なのか、簡単に説明します。
顔面神経が伸びていく段階で、神経が行き先を間違えてしまったり、神経同士がくっついてしまう状態です。
この状態になると例えば口を動かすと目が同時に閉じてしまったり、目を動かすと口が同時に動いてしまいます。
顔面麻痺になるとしばらくの間、筋肉は動きません。
動かなくなると筋肉は徐々に痩せていきます。
しばらくして神経が再生して筋肉が動くようになっても、一度やせ細った筋肉は急には元には戻りません。
尚、神経の再生が上手くいかなかった場合は、筋力も完全には戻らないこともあります。
通常、顔を動かすときは脳から「顔を動かせ」と指令が出て顔の筋肉が動きます。
しかし麻痺の状態になると脳から指令が出ても筋肉自体は動きません。
このような状態になると脳から更に強い指令が出るため、結果として顔の筋肉は強度の緊張した状態になります。
この状態を「顔面拘縮」と言いますが、本人の感覚としては「顔がこわばる」と表現する場合がほとんどです。
ただ私の経験上、顔面拘縮以外にも顔のこわばりを引き起こす原因はあると思います。
詳しくは「最後に・・・」でご説明します。
その他にも細かい部分の後遺症はあると思いますが、大まかに言われている後遺症は上記に挙げた症状になります。
尚、経験的に女性に多いのですが、思うように顔が動かないと精神を病んでしまう方もいらっしゃいます。
ですので顔面神経麻痺の後遺症は肉体面を含めて精神面でも辛い状態になると思います。
では後遺症が残ってしまった場合はどうしたらよいのでしょうか。
一般的には「ボトックス治療」「手術療法」等があります。
ボトックス治療は「ボツリヌス菌」を定期的に注射して筋肉の過緊張を緩める治療です。
手術に関しては、症状によって筋肉・神経の再建術が行われるようですが、後遺症の問題もあり積極的に行う術式ではないようです。
いずれも後遺症を完全に治すわけではなく、今の状態よりも改善させるといった療法になります。
要するに後遺症が残った場合、完治させることはほぼ不可能と言えます。
顔面神経麻痺の後遺症に対して、鍼灸はお役にたてるのでしょうか。
あくまでも私の経験でお話します(他の鍼灸院の見解はわかりません)。
まず「病的共同運動」については、鍼灸ではどうしようもありません。
鍼灸治療で神経の方向を変えたりすることはできませんので無理です。
「筋力低下」に関しては、鍼灸治療をして筋力が向上するなんてことはないのでこれも難しいと思います。
唯一、鍼灸治療がお役に立てるとしたら「筋肉のこわばり」です。
鍼灸治療は拘縮した筋肉を緩めることができますので、鍼灸を行うことによって硬くなった筋肉のこわばりを緩めることが可能なのです。
要するに、顔面神経麻痺後の後遺症に関しては「顔面拘縮(顔のこわばり)」に関しては有効だと思います。
当院には顔面神経麻痺で来院される方は多いと思います。
ほとんどの方は、鍼灸治療を受けると個人差はあるのですが改善に向かっていきます。
そして施術期間が過ぎたら施術を一旦終了とします。
しかし上記で説明したように、一部の方に後遺症が残る場合もあります。
経験的には「顔がこわばる」といった症状が多いようです。
そして「顔のこわばり」でまた来院される方も一定数いらっしゃいます。
顔面神経麻痺の後遺症のなかでも唯一「顔のこわばり」に関しては鍼灸治療での改善が高いと思います。
顔がこわばると言って来院される方の顔を実際に拝見するのですが、ほとんどの場合第三者から見ても顔の形は正常です。
患者さんが一番恐れているのは「また麻痺が再発したのではないか」と考えるようですが、麻痺が再発することは稀です。
あくまでも後遺症で顔がこわばっているだけです。
また人によっては「顔の動きが悪い」と言われる場合もあるのですが、これに関しても筋肉がこわばっているので動きがぎこちなくなっているだけで麻痺しているわけではないのです。
そしてこの「顔のこわばり」ですが、私の臨床経験上として悪化因子が幾つかあります。
過度のストレスが続くと自律神経の交感神経が過緊張状態になります。
このような状態になると、血管が収縮するので血流が悪くなります。
顔にある血管は、他の部位に比べると細いので如実に血流障害がおきて、結果として顔の筋肉がこわばります。
不眠が続くと身体や脳がリラックスせずに緊張状態になります。
緊張状態が続くと、やはり血流が悪くなって結果として顔のこわばりがおきます。
冬の寒さ、クーラーの風が直接顔面にあたると当然ですが顔の筋肉が冷えるので筋肉が硬くなってこわばります。
私の経験上、上記の原因で顔のこわばりを発症する方が圧倒的に多いと思います。
しかしそれ以外にも重要な要素があると思っています。
それは顔面神経麻痺を発症した方は、顔面神経が再生されたとしても「神経が敏感になっている」ということです。
要するに顔面神経麻痺によって一度神経が死滅してしまい、そこから新たに神経が再生するのですが、人によっては神経が前に比べて「敏感」になっていることがあるのです。
敏感になっている神経は、少しの変化(ストレス)で「違和感」を訴えます。
この違和感は人によって感じ方は違うと思うのですが、ほとんどの場合「こわばり」「張り」「動きが悪い」と表現する場合が多いようです。
この敏感になっている顔面神経は、いつまで敏感になっているのかはわかりません。
時間が経てば勝手に敏感ではなくなる(要するに慣れる)かもしれませんし、ずっと敏感さが残るかもしれません。
以上、これらをまとめると。
顔面神経は再生したが、神経自体が敏感な状態になっていて、尚且つストレス、寝不足、冷え等があると「顔のこわばり」といった症状を発症すると思われます。
尚、当院では顔面神経麻痺後の顔のこわばりについては上記の原因も加味して施術を行っています。
要するに顔面部だけを診るのではなく、全身の血流、自律神経等も加味して総合的に施術を行うようにしています。
顔面神経麻痺は改善したけど、顔のこわばりが気になる方は当院の鍼灸治療を試してみてください。
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